イヴニング・ウィズ・ジョージ・シアリング & メル・トーメ
70年代のメル・トーメは不遇だった。しかし80年代に入ってコンコード・レーベルからコンスタントにアルバムを発表、見事に復活を遂げた。本作は、同レーベルに何枚もあるジョージ・シアリングとの共演シリーズ第1弾である。この作品によって、メルは83年の第25回グラミー賞で、最優秀男性歌手賞を受賞した。
メルはそれまでグラミー賞に10回以上もノミネートされていたが、この時が初受賞だ。さぞ本人は大感激だろうと思いきや、知らせを聞いて一瞬戸惑ったという。なぜなら、この作品はシアリングとのコラボレーションのたまものなので、シアリングを差しおいて、1人栄誉に浴するなんて申し訳ないと思ったそうだ。また、メルは録音の10日前に先天性ヘルニアの手術を受けたばかりで、録音当日も体調が万全でなかったので、まさか受賞するとは思わなかったのだという。
そんな裏事情とは関係なく、ここに聴かれるメルの自由奔放な歌声は、機知とユーモアに富み、ジャズのエッセンスに満ちあふれていて、最高にすばらしい。(市川正二)
・ amazon music : An Evening With George Shearing & Mel Torme (1982)
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